A good day to die

映画とか書籍についてのツイッターまとめ

物語ること、願うこと『物語る私たち』

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つい先日『物語る私たち』を観ました。

監督、サラ・ポーリーの自伝的作品であるドキュメンタリー映画です。前情報を予告編のみにとどめて観に行った私は開始10分ほどでこの映画が大きく予想を裏切った技法によるものだと気付きました。サラが彼女が幼い頃に亡くなった母、ダイアンの人生と自分の本当の父親について知るために家族やダイアンの知人を呼び出して話を聞く、というのが大まかなあらすじなのですが、映画の造りは定点カメラでのインタビュー映像と荒い画質のフィルムが交互に写されるのみです。

どんな映像でも撮れるようになった現代においてあそこまでシンプルなカメラワークを通した映画を観れることってそうそうないのではないでしょうか。感情を隠さずに一人の人生を語るサラの関係者の真っ直ぐな視線にぐらりときます。とても素直で素敵な100分ちょっとの映像体験。

サラの母の生涯を語る人々の表情を見つめていると、「人生はどうしたって喜劇になってしまう」(台詞のディテールを失念してしまいました…)という主旨の台詞がじんわりと効いてきます。母ダイアンは決して聖女ではなかったし、娘のサラも含め関わった多くの人を傷つけたのに彼女を語る人々の目には恨みや憎しみは欠片も見つからない、どんな人生だって過去になってしまえば喜劇の一面を持ち得る。その事実は今を傷つきながら生きる自分にとってちょっぴり憎たらしくてトンネルの向こうの光のような希望になります。『物語る私たち』はじわじわとさみしい秋になりつつある今の季節にぴったりのあたたかい映画でした。